クーペのような美しさと、高い走行性能や機能性を両立し、現在世界中で注目されているマツダ3。今からちょうど30年前、そんなマツダ3とほぼ同じコンセプトとも言えるモデルがありました。しかも、専用設計てんこ盛りの凄いヤツだったんですよ!さて、マツダ3→アクセラ→ファミリア……と先祖を遡りましては7代目ファミリアへ。1989年に登場した7代目ファミリアには、3ドアハッチバックと4ドアセダンに加え、新たに5ドアのハッチバックがバリエーションモデルとして設定されました。それがファミリア・アスティナです。
5ドア車というと実用性や機能性を重視した“野暮ったい”というイメージが強かった当時、ファミリア・アスティナが目指したのはクーペのようなデザインでした。どことなく同時代のサバンナRX-7(FC3S)をイメージさせるリトラクタブルヘッドライトを採用した低いノーズや、力強い印象を与える太めのCピラー、カラードスポイラーなどスポーティなデザインが特徴です。しかもカッコだけでなく、全幅1675㎜、全高1335㎜のワイド&ローボディは、Cd値0.31の優れた空力特性も実現していました。加えて内装も3ドアハッチバック、4ドアセダンとも異なっており、専用デザインのパーツを多用。スポーティかつファッショナブルに仕上げられていました。
エンジンは2種の1500cc4気筒と、1600cc4気筒を設定。1500ccは、B5型1500ccOHC16バルブ[最高出力91馬力・最大トルク12.4㎏m]、B5型1500ccDOHC16バルブ[最高出力110馬力・最大トルク12.9㎏m]で、ともに新開発されたもの。次に、トップモデルが搭載する1600ccは改良が施されたB6型DOHC16バルブで、最高出力130馬力・最大トルク14.0㎏mを発揮しました。トランスミッションは各エンジンとも5速MTと4速ATの設定で、4速ATはホールドモード付きの電子制御でした。サスペンションは4輪ストラット式で、ロングホイールベースを感じさせないキビキビしたハンドリングとするため、「キャンバーコントロール機構」がフロントに採用されているのが特徴。これは、3ドアハッチバックや4ドアセダンのファミリアにはなく、アスティナのみに採用されました。
販売チャンネルの多角化や車種の統合により、日本において「アスティナ」の車名は1代限りで終了、実質的な後継を「ランティス」が担いました。このランティスが、一部海外の国ではアスティナの名を継承して販売されたりもしましたが……なんと現在も、オーストラリアにおいてはマツダ3の最上級のグレード名として、「アスティナ」の名が残っております(ちなみに「アスティナ」とは、“磨きをかける”というフランス語をアレンジした造語)。
4ドア&ハッチバックのクーペ型モデルといえば、トヨタ・コロナSFと同系統のスタイリングだが、ファミリア・アスティナはもっとコンパクトだ。ふくらみのあるフェンダーと前後の絞り込みが効いて、キュッと引き締まったスポーティな印象が強い。ホイールベースは2500㎜と、ファミリア4ドアセダンと同一だ。ホイールベースを長くとることによって、前後のオーバーハングを短くする。これがファミリア・アスティナのスタイリング上のポイントだという。全長は4ドアセダンより10㎜長く、全高はじつに40㎜も低い。グンとワイド感を出しているが、全高が低い割には室内のヘッドクリアランスは十分で、事実上セダンと同じ居住性を備えている。後席のヘッドクリアランスもクーペにしては十分だ。
さて、ボンネットの低いアスティナのフロントサスストロークは、セダンより10㎜短い。単に短くしただけでは操縦性に難点をもたらすので、ファミリア・アスティナのフロントサスはキャンバーコントロールを行う工夫がされた。十字型の特殊なゴムブッシュをストラット頂点の支持部に組み込み、ステアリングを切った状態でネガティブキャンバーを適度にキープするというもの。そのネガティブ・アングルはわずか15分にすぎないが、これで操縦特性は4ドアセダンに似たものになるのだという。さらにフロントのダンパーはガス式で、ストロークが不足した分を補う。いずれもノーズが低く、サスストロークが短くなったことによる弱点をカバーするための改良である。
リヤにハッチバックを背負った分だけ重量は後部にかかるはずだが、前後重量配分はセダンと同じだという。1600DOHCエンジンでファミリア・セダンGTよりより10㎏重いが、この程度は問題ではないようだ。130馬力/7000回転、14.5㎏m/5500回転のB6型DOHCエンジンは相変わらずよく回る。6500回転のレッドゾーンを軽々とオーバーする。だが、もうひとつトルク感に欠けるのが惜しい。
既にファミリアで体験したとおり、大衆車レベルとしては極めてボディ剛性が高く、またどっしり重厚感のあるサスフィーリングは新型ファミリア系に共通した“美点”だ。185/60R14のポテンザ88のタイヤ特性もさることながら、ファミリア・アスティナのドリフトはおだやかだ。ほぼニュートラルに近い弱アンダーなのだが、フロントが逃げて手に負えなくなるということがない。テールの流れをアクセルワークでコントロールしつつ、ゆっくりとした動作でカウンターステアを当てれば、きれいにコーナーを抜けて行く。サス性能に余裕があるのだ。操縦性に荒っぽさがない。ステディなサス特性である。ステアリングの重さとそのサス特性もよくマッチしている。繰り返しになるが、エンジンのトルク感があれば、このクルマは世界のトップレベルにランクされるはずである。内容の濃いスポーティクーペだ。
─1989年ドライバー6月5日号・遠藤春雄氏のレポートより─
[ファミリア・アスティナ1600DOHC(5速MT)主要諸元]■寸法・重量全長:4260㎜全幅:1675㎜全高:1335㎜ホイールベース:2500㎜車両重量:1020㎏燃料タンク容量:50ℓ
■変速比1速:3.416 2速:1.842 3速:1.290 4速:0.972 5速:0.820最終減速比:4.388■サスペンション・ブレーキ・タイヤサスペンション:ストラット(前後)ブレーキ:ベンチレーテッドディスク(前)/ディスク(後)タイヤ:185/60R14
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