右ハンドルでもまったく問題なし!? 元A110オーナー、新A110を駆る!

速さよりも、大事なもの

新世代の「アルピーヌA110」より、サーキットを速く走れたり、より高いコーナリング速度を得られるクルマは少なくないだろう。けれども、新型ワンテンほど、ドライバーと意志を通わせ、息づかいが感じられるマシンは珍しい。

2017年のジュネーブショーで市販モデルが発表され、またたく間に人気車種となったアルピーヌA110。世界的に品薄状態が続き、ここ日本でも、最初の限定モデル「プルミエール・エディション」(790万円)50台が、応募者多数のため、くじ引きで購入者が決められたことは記憶に新しい。アルピーヌA110の組み立ては、北フランスのデュエップで行われているのだが、その生産台数は年間数千台のオーダー。まだまだウェイティングリストは長くなりそうだ。

日本でのカタログモデルは、スポーティな「ピュア」(790万〜811万円)と、ラグジュアリー……というより、より日常使いに配慮した「リネージ」(829〜841万円)の2種類。両者はアルミホイールのデザインが異なり(タイヤサイズは同じ)、インテリアも、ブラック/シルバーをベースとするピュアに対し、リネージはブラウン基調の落ち着いた雰囲気となる。オーディオにサブウーハーが付くのも、後者のみ。また、リネージのスポーツシートには、リクライン、リフト機能が付き、さらにシートヒーターが備わる。こうした仕様の違いはあるものの、ピュアとリネージの間で、エンジン、トランスミッションほか、機関面での差異はない。

●「ピュア」のシート。限定販売「プルミエール・エディション」と同じ。シート高はボルトで調整する
●「リネージ」のシート。電動の高さ調整、リクライニング機能付き。もちろん「サベルト製」

 

一般公道とショートサーキットを使ったプレス試乗会が開催されたので、参加した。現地にリネージも展示されていたが、試乗に供されたのはピュアだ。

マツダ ロードスターがスッポリ収まるサイズ

アルピーヌA110というと、まずは「軽量コンパクト」というフレーズが続くのだが、実際のところ、どうだろう? もちろん、1960年代のオリジナルA110と比較するのは馬鹿げているが、新しいA110のボディサイズは、全長4205mm、全幅1800mm、全高1250mm。意外に「小さくない」。マツダ「ロードスター」がスッポリその中に収まる大きさといえば、わかりやすいだろうか。

●エンジンはミッドに搭載。全長は4205mm。写真はリネージ

アルピーヌスタッフの人によると、ニューA110の車両寸法は、「なによりデザインを実現させるため」決定されたという。なるほど、エンジン搭載位置をRRからMRに変更しながら、新型アルピーヌはよく初代のイメージを踏襲している。もともと冗長(じょうちょう)になりがちなミドシップレイアウトを採り、現代の厳しい安全基準にパスさせる必要があり、なおかつデザイン代(しろ)を確保しようとすると、おのずとニューモデルのディメンションになるわけだ。もうひとつ。ベンチマークとしたポルシェ「718ケイマン」の大きさが「この程度」ということも、重要ポイントだったに違いない。

A110としては余裕あるボディサイズが災いして(!?)、フルアルミボディという贅沢な構造を採用しながら、カタログに記載される車重は1110kg(リネージは1130kg)。お値段3分の1のロードスターが、オープンボディという不利な条件ながら1000kgを切るグレード「S」をそろえていることを考えると、ちょっと残念な気がする……というのは、クルマオタク的な視点に過ぎない。実際に財布のひもを緩めるユーザーは、まずはケイマンと比べるはずで、その場合、新しいフレンチスポーツは、なんと300kg近くも軽い! 比較対象として、間違いなく魅力的なスペックだ。

A110が常識的な大きさになった恩恵はドライバーのポジションに表れていて……それよりなにより、21世紀のアルピーヌには、右ハンドル仕様が用意されるのだ! 初代ワンテンの元オーナー(←自分のことです)には、信じられないことである。

●カタログモデル「ピュア」と「リネージ」には右ハンドルを用意。もちろん、左ハンドルも設定

ラリーカーそのものだったかつてのA110は、ドライビングポジションを取りやすい左ハンドルにもかかわらず、わずか1520mmという横幅ゆえ、乗員の足もとはひどく狭くて、運転者はクラッチを踏まないときの左足の処理に困ったものだ(クラッチペダル左の狭い空間に”挟みこむ”か、足を折り曲げて室内に侵入したホイールハウスを踏むしかない)。右ハンドルなんて……冗談にもならなかった。

ところが、新型アルピーヌは右ハンドル車がメインに据えられるのみならず、ステアリングホイールにはチルトとテレスコピック機能まで備わり、自然な運転姿勢が取れる。ペダルの位置も適正で、左足用のフットレストまで設けられている! ちょっとハナシが先走るが、スポーツカーとして気になるブレーキ関係も、右ハンドル向けにサーボ等の設置場所を移してあるので、利き、タッチとも問題ない。うれしいかぎりだ。

●右ハンドルでもフットレストがある!

車内を眺めると、外観に劣らずインテリアも、上手に初代の雰囲気を残している。旧型で苦労した元オーナーにとって、カーオーディオはもとより、なによりエアコンが標準で備わるのが夢のようだ。13.1kgという驚異的な軽さのサベルト製モノコックバケットシート(ちなみにメガーヌR.S.のレカロシートは27kg)は、しっかり体を支えてくれるだけでなく、当たりがソフト。こんなところにも”フランス車らしさ”が表れる。そのうえ凝ったレザーで包まれ、スポーティな見かけにプラスして、高級感がある。

乗員背後に横置きされるパワーソースは、1.8リッター直列4気筒ターボ(最高出力252馬力、最大トルク320Nm(いずれも参考値))。わずか2000回転で最大トルクを発生する過給器付きらしいエンジンで、通常の街乗りでは、3000回転も回っていれば十分に速い。特徴的なのは、スロットル操作に伴って、タービンの楽しげな音とリリーフバルブのため息が、ひっきりなしに聞こえてくること。まさにクルマの息づかいそのもの。これを「ウルサイ」と感じる人はA110を買わない。

●エンジンルームをのぞくには、ボルト固定のリアウインドーを外して、覆いかぶさるエンジンカバー(こちらもボルト固定)を取り外す必要がある

一方で、このエンジンは、息をひそめてドライバーの操作を待っているところもある。ターボらしからぬレスポンスのよさ。俊敏で鋭いステアリングと併せ、軽量なフレンチスポーツは、あたかも運転者の指先のように反応する。息を合わせて走ってくれる。

トランスミッションは、ゲトラク製のデュアルクラッチ式7速AT。走行モードが「ノーマル」のときは静かにスムーズにギアをつなぎ、「スポーツ」モードになると、一転、少々ワイルドに素早くシフトアップし、必要に応じて、派手めなブリッピングを響かせてシフトダウンする。わかりやすいギアボックスですね。

乗り心地のよさに驚く!

乗り心地がいいこともアルピーヌA110の美点だ。4輪ダブルウィッシュボーンというスポーツカーの基本に忠実な足まわりを持ち、路面の凹凸をしなやかにいなして走る。ショックアブソーバー底部には「ダンパー・イン・ダンパー」といえる機構が備わり、大きな突起を越えた際の、いわゆる底付きを抑えている。

印象的なのは、ミッドシップスポーツとしては異例なほどロールを許すことで、これがアルピーヌの挙動のわかりやすさに繋がっている。少々腕前に疑問符が付くドライバーでも(←ワタシです)、「タイヤが滑ったら終わり!」と冷や汗をかくことなく、山道を行き、峠道を走り、ときにタイトコーナーでスライドを楽しむことまでできる。

「前:後=44:56」という前後重量バランスのよさ、キャンバー変化の少ない足まわり、そして適度な姿勢変化。こうした要素こそ、ニュー110が、これまたミドシップとしては珍しくゲイン高めのステアリング特性を持ちながら、操縦する者に「コワイ!」と感じさせず、むしろ「思いどおり!?」と錯覚させ、楽しくドライブさせる秘密だろう。

●ショートサーキットでの同乗走行では、自由自在の4輪スライドを見せてくれた

ポルシェより軽い

公道試乗のあと、ショートサーキットで同乗させてもらったアルピーヌのテストドライバー氏は、「ポルシェと比べて軽いからねぇ」と、カーブのたびに4輪スライドを決めて見せた。自由自在。ちなみに、A110ピュアのパワーウェイトレシオは4.40kg/ps。ポルシェ718ケイマン(PDK)は、1390kgに300馬力だから、4.63kg/psとなる。

タイヤサイズは、前205/40R18、後235/40R18。最新のスポーツカーとしては控えめな数値だが、一方で、装着されるミシュラン「パイロットスポーツ4」は、A110専用に開発されたもの。「積極的にスライドして走らせる」というA110の特性を際立たせる「適度なグリップ性能」を持つ、と説明される。タイヤサイズともども、よく研究されているのだ。

新世代のアルピーヌA110は、鬼面人を威すハイスペックは持たないけれど、そのファン・トゥ・ドライブぶりには驚くばかり。ボディやシャシーの余裕を見ると、また、ポルシェの常套手段から察するに、今後、A110にさらなる高性能版が現れることが予想される。とはいえ、コンセプトにピュアな初期型(=現行モデル)の魅力は、将来にわたって色あせることはないだろう。買って損はない。惜しむらくは、ディーラーに駆け込んで衝動買いしたくとも、タマがないことだ。

●メーターはフル液晶
●シフターはスイッチ式

●前後に独立したトランクあり。大荷物は無理だが、小旅行程度なら十分だろう

●ピュア(上)とリネージ(下)ではホイールのデザインが違う

 

<文と写真:ダン・アオキ>