新型スープラ、“コネクティッドが10年間無料”の理由を探る。※価格や装備情報もあり

●86に続き、スープラでも開発主査を務めた多田哲哉氏

車両本体価格は、税抜き490万〜690万円

写真=山内潤也  photo by Junya Yamauchi  ●グレードはRZ。3リッター直6エンジンを搭載したトップグレードだ。ボディカラーは、抽選の限定色マットストームグレーメタリック

新型スープラの予約受付が、3月9日から始まった。スープラは、BMW Z4の兄弟車となるスポーツカー。グレードは、3リッター直6ターボ(340ps/500Nm)のRZ、2リッター直4ターボ(258ps/400Nm)のSZ-R、同エンジンで出力/トルク違い(197ps/320Nm)のSZ、以上3種類。近所のディーラーで見積りを取ると、RZが702万7778円、SZ-Rが600万9259円、最廉価のSZで499万741円と出た。注目は、限定色のマットストームグレーメタリック。なんと抽選で、価格は34万5600円とのこと。ホイールは、RZが19インチ、SZ-Rが18インチ、SZは17インチ。

スープラの価格や装備はこちら

以上の内容は、すでにSNSなどを通じて拡散されているから、ご存知の方も多いかもしれない。

一番驚いたのは、DCMが全車標準、しかも“利用料最大10年間無料”ということ。DCMとはクルマに搭載される専用通信機器。※トヨタのDCMに関しての詳細は→https://toyota.jp/tconnectservice/intro/dcm.html

10年間無料って、正直すごい! 現在のトヨタ車では、初年度は無料だが継続・中途解約で約1万2960円/年の費用がかかるのに、スープラは10年間無料なのだ。もちろん、車両価格に含まれているのかもしれないが、なぜ全車標準で10年間無料なのか。ここには、どうやら大きな戦略が隠されているのではないかと編集部では想像している。

その根拠となるのは、新型スープラが世界初披露された今年1月のデトロイトショーでのこと。開発主査の多田哲哉氏にインタビューをしたときのことだった。その模様を下記より展開する。10年間のなかで、技術やサービスは進化する。スープラはその走りでだけではなく、さまざまなサービスによってオーナーに至福の時間を味わわせてくれるのではないだろうか……。正式発表は5月17日と予想している。

では、早速そのインタビューの内容をお届けしよう!
※ちなみにインタビューした時点では、DCMの10年間無料などの内容は明らかにされていない。インタビュワーは、島下泰久氏である。

86での経験を、スープラで進化させる

●86に続き、スープラでも開発主査を務めた多田哲哉氏

―― 「GR Supra Racing Concept」がお披露目された2018年3月のジュネーヴ モーターショーでお話をうかがったときに多田さんが話されていた、バーチャルレースへの参戦、そしてリアルタイムで車両データを自分のスマートフォンに飛ばせるようにすることといった新しいクルマの楽しみ方も、新しいスープラの非常に大きな特徴だと思っています。改めてどんな取り組みを考えているのか教えてください。

多田 クルマのCANデータって、それこそスマホとは比較にならないくらい精度が高く、データ数も多いんです。これをうまく外部に取り出して、スマホのアプリでうまく使うことができれば、クルマを進化させることができる。と考えて86のときにやってみたんですが、データのやりとりにUSBを介するというのが面倒くさくて誰もやってくれなかった。なので今度は、それをBluetoothでリアルタイムに集められるようにしたんです。

●2014年4月に発表となった86のスポーツドライブロガー。リアルとバーチャルの融合によりクルマの新しい楽しみ方を体験できる装置で、スポーツドライブロガー専用のGPSからの位置情報とCANと呼ばれる車両内部のコンピュータ同士のデジタル通信情報を内部メモリーに記憶した後、USBメモリーに転送可能。転送される情報にはGPS信号、アクセルペダルストローク、ステアリング舵角、ブレーキ操作信号、シフト操作信号、エンジン回転数、車速などの走行データが含まれており、対応したアプリケーションで利用できる

―― WECやF1のマシンのテレメトリーシステムのようなことができそうですね。

多田 これの何が難しいのかというと、車両データを外に出すっていうのは自動車メーカーからするとすごくリスキーなことなんです。そのセキュリティを確保しながら、アプリのクリエイターたちがいかに使いやすいデータに変換して情報を届けられるかが、ひとつのカギで。あとは、そのデータをそういうリアルタイムのトランスミッター機能にうまく繋げるのが大変でしたね。

―― 技術的にはできそうですが、実際にはコストも通信スピードも課題となりそうです。

多田 製品にしようとすると昔はバカ高くて、誰もこんなの買わないだろうと思ってました。ところが昨今、自動運転技術が急速に進化して、GPSやBluetoothの性能も向上してきたし、それを世界中のユーザーに届けるために必須の5Gも見えてきた。4Gだと遅れがあってクルマの動きが全然伝わらないんです。で、こうした条件がそろえば、近い将来にこうしたことが現実になって、おもしろいアプリも揃いそうだとなったわけです。

―― 車両データをリアルタイムに取り出す道は見えてきた。肝心なのは、それで何をやるかですよね。

多田 そう、車両データをリアルタイムで自分のパソコンに飛ばせるところまでは来た。それをどう使うかというと、5Gだと世界中の人にそれを瞬時に届けられる。一例だけど、例えばNASCARでカイル・ブッシュ(トヨタを駆るトップドライバー)の助手席に乗ってレースに参加できたら、こんな楽しいことはないよね。VRゴーグルをかけて自分の家のシートに座るだけで、リアルタイムに彼の横でレースが体験できるという。もしく全参加車両にそれを付けて、5Gで世界中にデータを送れば、実際のレースにバーチャル参戦できる。いくらお金があったってトップカテゴリーのレースに実際に参戦することはできないわけですが、それが普通に体験できるようになるんです。

●3月9日にNASCARエクスフィニティ・シリーズの第4戦「iK9 Service Dog 200」がISMレースウェイで開催。前戦に続き”トヨタ スープラ”で勝利を挙げたカイル・ブッシュ(#18:左)と首位を争うもアクシデントでレースを終えたクリストファー・ベル(#20:右)

―― それは新しいビジネスになり得ますね。

多田 そう、課金の仕方もちゃんと考えれば、新しいビジネスになる。レーシングドライバーの運転そのものに価値がつけば、レースに新しい道が拓かれると思うんです。まあ、実際には世界中で多くの人が、同じようなことを色々と考えていると思います。なので、いかに早くやるか。これはほんの一例ですが、すでにアプリを作っている人たちなんかは、この膨大なデータがあればとんでもなくおもしろいアプリが作れるかもしれない。そうしたらクルマの楽しみ方、スポーツカーの楽しみ方も大きく変わる可能性がある。それを可能にするインフラもどんどん進化していますからね。実際に皆さんにお披露目できる日は、思ったより早く来るんじゃないですかね。

―― スープラとしては、まずバーチャルレース(ドライビングシミュレーションソフト『グランツーリスモ』のポリフォニー・デジタルとFIA(国際自動車連盟)がパートナーとなって開催しているオンラインチャンピオンシップ)に参戦するということですが、実際のレースの活動は何か考えているんでしょうか。

多田 要望はたくさんいただいています。たとえば86/BRZが大盛況で今、新しく入っていくのが難しくなっている。なので上位の人にスープラのレースに行ってもらえば、みたいな意見はあるんですけど、現実を見るとサーキット自体のスケジュールはもうギチギチで無理。だから、スープラはまずバーチャルでワンメイクレースみたいなのをやってみようかと考えています。ディーラーにシミュレーターを置いて、ディーラー間をネットワークで繋いで戦ってチャンピオンを決めるみたいな。クルマ自体は、モータースポーツでの使用を十分に考慮して作っていますが、まあじっくり考えて行こうかなと。

―― eスポーツとの融合は、まだまだ可能性がありそうですね。

多田 ありますね。eレースも、例えばクルマの開発の要素を入れたらおもしろそうじゃないですか?

―― eレースでクルマの開発が進んで、それが実車に反映されたりというのはワクワクしますね。

多田 将来はそういう開発チームができたっていい。そういう部署があるからトヨタに入ってもいいよと考える若者だって出てくるかもしれない。

―― カーシェアリングが進んでいくとは言っても、スポーツカーみたいな思い入れをもって乗るものは難しいかなと思っていたんですが、例えばクルマのセットアップをすべて自分の手元に飛ばせるようになると、借りているクルマでも十分『オレのクルマ』感を味わえるようになるかもしれないですね。

多田 それは保安基準上どうなんですか、なんて言いたがる人は、山ほどいるわけですけどね(苦笑)。

―― 一方、シェアリングが進んでくると、スポーツカーの所有はむしろ増えると私は思っているんです。ふだん使いの道具としてのクルマはシェアリングでいいとなれば、空いたガレージには家族持ちだとこれまでは絶対乗れなかった2シータースポーツカーを入れるのだって、ハードルが下がりますよね。

多田 ええ、そのとおり。スポーツカーの未来は明るいと思います。

―― 多田さんはそんなスポーツカーを2台続けて開発されたわけですが、振り返ってみていかがですか?

多田 自動車会社にエンジニアとして入ったら皆、一度はスポーツカーを作りたいって思うよね。だから86を作れた時も、とても嬉しかったんだけど、その上でもう1回こんなチャンスがあるとは思ってもいませんでした。正直に言うと、スポーツカーは1度作ってみないと勝手が解らないと今は思います。86で、スポーツカー作りをある程度解ったから、今回はスタートからかなり高いところまで持っていけたのは間違いないです。86は本当に手探りで、何をどうしたらいいのかわからないところから始めたので。」

―― スポーツカーはやはり特別、普通のクルマとは違いますか?

多田 やっぱり普通のクルマとは随分違う。本当にいいクルマを作ろうと思ったら、2回くらい経験しないと。そもそも1回に時間かかるしね。人生のなかで、そう何度も経験できるわけじゃないよね、畑を作るところからクルマ作りをするって。普通のクルマはコンポーネントを組み合わせて作ることが多いけれど、スポーツカーは畑作りから始めて、本当に骨格から作っていかないと出来ないので。いろいろな経験をしていないと、因果関係ってなかなかつかめないですよ。本当に、こんな機会を与えてもらって、極めてありがたいですよね。