【日本人F1ドライバーへの道】異例のF2復帰。松下信治、F1への最後の挑戦

F1で勝てるドライバーを育てるために

F1第2戦バーレーンGPの週末に開催されたFIA F2開幕戦のパドックに、3シーズンに渡るGP2、F2での戦いから日本に戻り、昨年はスーパーフォーミュラを戦っていた松下信治の姿があった。昨シーズン、チームランキング1位を獲得したカーリンのシートを得て、ヨーロッパでの戦いへと舞い戻ったのだ。

目指すのはあくまでF1。ヨーロッパで戦いたいとホンダを説得するのみならず、F1ベルギーGPの現場に赴き、F2のパドックで各チームの首脳たちと独自に交渉を重ねるなどしていた松下の熱意にホンダが応えるかたちで、異例のカムバックが実現したのである。

「2019年に向けてF2の各チームと話すと、先方からは真っ先に松下の名前が上がりました。『どうしてお前は松下を日本に戻したんだ』って言われたりもして、とても評価が高かった。それに加えて、熱意というか周囲を味方にしていく力もある。ホンダとしては単にF1に出るだけではなく、勝てるドライバーを育てたいわけで、そういう可能性があるのは松下だろうと判断したんです」

松下のF2復帰を決断した当時のホンダ モータースポーツ部長、現在はF1マネージングディレクターの山本雅史氏はこう話していた。もちろん、これは異例のことであり、そして最後のチャンスであることは言うまでもない。

「公式テストではレースを見据えたセッティングに集中してきたので、マシンの状態はいいと思います。チームはとてもいい雰囲気だし、自分に合っている。自分自身の弱点、穴の部分もしっかり埋めてきたので、不安材料はないですね」

初日のフリープラクティス、そして予選を経て松下はこう話していた。いい意味で気負いはなく、表情はリラックスしている。

土曜の予選では6番手につけた。いわゆる一発の速さは、現行のマシンが投入された昨年も参戦していたドライバーにまだ譲るというのが本人の弁。実際、F2参戦3年目のチームメイト、ルイ・デレトラズは2番手につけた。

「スタートは得意なので、いくつか順位を上げられれば」

午後にはまずフィーチャーレースと呼ばれるレース1が行われる。ここバーレーンでは32周で争われるこのレースは、途中で1回以上のタイヤ交換が義務付けられ、2種類のタイヤを使用しなければならない。

このレース1で松下選手は、公約通りスタートで1台をかわして5位に。8周目には4位まで浮上するが、タイヤの摩耗に苦しみ上位陣では誰よりも早い12周目にはタイヤ交換を強いられる。ミディアムタイヤで12周しか保たなかったのに、それより柔らかいソフトタイヤで残り20周を走らなければならないので不利になるが、速いペースで周回を重ねていき、ライバルの多くもピットインしてきたことで、18周目には2位まで順位を回復する。

しかしながら20周目を過ぎるとタイヤの摩耗により大幅にラップタイムが低下。徐々に順位を下げはじめ、最終周には6秒も速いペースで追い上げてきた初参戦のミック・シューマッハーにかわされ、結局9位フィニッシュに終わった。あとで聞くと、チームがセットアップを外して強いアンダーステアに見舞われたという。日曜に行なわれるレース2はレース1の結果によりスタート順位が決まり、更に1位から8位まではリバースグリッドとなるため、8位に入れていればフロントロースタートできたのだが…。レース1を観たあと、山本F1マネージングダイレクターはこう話していた。

「大事なのは勝ちっぷりもだけど負けっぷりです。俯瞰で見るレース戦略。例えば今回は勝てないとなったときにも、ポイントをこぼさずに取ってくると切り替えられるようじゃないと。それは色々な面で言えることです。チームとの関係も、いかに自分のためにやる気になってくれるかという雰囲気をドライバーが作っていかなければいけません」

日曜日に行なわれるレース2は、23周で争われるスプリントレース。9番グリッドからミディアムタイヤでスタートして7位まで上げた松下は、10周目にピットに向かい、ソフトタイヤに履き替える。レース1で露呈したタイヤ摩耗の厳しさをカバーするためである。

レースは同じようにタイヤを交換する者、そのまま走り切る者に分かれたが、優勝したのは松下選手と同様にタイヤを交換した7番手スタートのルカ・ギオットだった。一方の松下は12位。じつはスタート前からギアチェンジが不調だったといい、戦略は間違っていなかっただけに惜しまれる結果となった。

「勝てるときに勝つのはもちろん、勝てないときも安定してポイントを稼いでいくというのが今年しなければならないこと。それができなかったのは残念ですが、まだシーズンは長いので諦めずにやっていきます」

F1ドライバーになるのに必要なスーパーライセンスポイントは、過去3年の累計で40点以上。松下は2017年のF2年間6位で現在10点を持っているから、今シーズンのF2でシリーズ4位に入り30点を獲得できれば、その資格を得ることができる。F2は年間12ラウンド24戦で開催されるだけに、もちろんまだまだチャンスは十分。その戦いぶりを今年は追いかけ、報告していくつもりだ。

では最後に、レース直後の松下のコメントを動画でお伝えする。

〈文=島下泰久 写真=Honda〉