ニュル24時間レースで走ったスープラ。開発主査・多田哲哉氏がアップデートを示唆!?

ニュル界隈でひそひそ話!?

GRスープラが初参戦し、見事総合41位、SP8Tクラス3位という好成績でフィニッシュした今年のニュルブルクリンク24時間レース。そのニュルブルクリンクで、ドイツトヨタが主催したユーザーイベントのため自らスープラを運転してやってきたチーフエンジニアの多田哲哉氏と合流し、周辺の道路でドライブしながらのトークを行った。

改めて言うまでもなく、ニュルブルクリンクは自動車メーカーにとって聖地とも言うべきテストトラックである。ここで大きいのは、サーキットだけでなく周辺にもさまざまな評価に活用できる多種多様な一般道が広がっていることだ。今回も、喧騒のパドックを離れて、トヨタがふだん使っているテストルートをなぞりつつ、色々なお話をうかがった。

↓↓動画でも2人のトークを展開

主体はいわゆる郊外のワインディングロードだが、舗装は決してよくはなく、しかも荒れ方はさまざまだ。制限速度は高く、100km/h以上出せるところが多いわりに道幅は狭く、また路面によってロードノイズの質は違ってくる。そして何より、自然の力でできたアンジュレーションは、縦横斜めのさまざまな方向からの入力となってクルマを揺さぶる。乗り心地、静粛性、ボディ剛性等々が鍛えられる道だ。

一方、そこから街に入ると制限速度は一気に50km/hないし30km/hまで下がる。速度を落とさせるよう植え込みが道路にあえてはみ出ていたりする。ここでは、例えば低速域から正確なステアリング、ブレーキ、アクセルの操作性が求められる。

しかしながら率直に言って、いかにもテストコースという風情の派手さはない。ヨーロッパでは、ごくありふれたフツウの道だ、とも言える。

「サーキットだけではクルマが偏ってしまうんです。なので、こういうところも走ってクルマのバランスが取れるんです。ユーザーにとって、サーキットを走るのなんて一瞬でしょう? こういう道をいかに気持ちよく走れるかが大事だと思ってスープラを開発してきたんです」

多田チーフエンジニアがそう言うように、スープラで走るヨーロッパの一般道は一言、じつに気持ちがいい。ステアリングは中立位置での落ち着きがあり、しかも正確。乗り心地に優れ、またずっと複雑な起伏が連続する場面でも、決して接地感を失うことがないから、安心してペースを上げていける。

個人的には特にステアリングフィールが気に入った。据わりがしっかりしているけれど、手応えは重すぎずスッと切り込むことができる。このあたり、80スープラの、あるいはトヨタ車らしいテイストを改めて感じることができた。

●今回GRスープラのステアリングを握ったのは、(左から)モリゾウ選手こと豊田章男社長、佐々木雅弘選手、ウヴェ・クリーン選手、ヘルフィ・ダーネンス選手

コーナーではケイマンより速い!

さて、レースでのスープラはどんな走りを見せたのか。4人のドライバーのうちの1人、佐々木雅弘選手によれば、レースでのスープラは想定以上に高い気温によってフェールセーフが作動し、ショートシフトが必要な状況となることもあったが、それ以上の深刻なトラブルにはならず、他車との接触が1度あっただけで見事、完走を果たした。

「エンジンがそういう状況でしたし、とにかく絶対完走ということで無理をせず走っていたんですが、コーナーでは(ポルシェ718)ケイマンよりも速かったですね。このまま開発を進めていったら、相当戦えるクルマになると思います」

佐々木選手のスープラ評はこう。実際、レース中には9分14秒890という好ラップタイムも記録している。

多田氏によれば、まだ駆動系には余裕があるし、ターボエンジンなので冷却さえできればパワーはもっと上げられるポテンシャルがあるという。その冷却も、すでにレポートされているとおり、車体にはレーストリムにしたときに開口部にできる孔がいくつも用意されており、またフロントの開口も十分取られているから、つまり準備は十分というわけだ。

「今回のマシンに投入したアイテムは来年以降の(量産車の)アップデートを見据えたもので、レース用のものは使っていません。市販前提のもので走っていて、その中から(量産車用として効果的なものを)チョイスして入れていきます。それを繰り返していくことがスープラがニュルブルクリンクを走る意味なんです」

多田氏は今回の参戦について、こう話してくれた。GRカンパニーから世に送り出されるモデルは、モータースポーツフィールドで開発される。まさしくスープラも、その一員なのだ。

ところで今回のニュルブルクリンク24時間レースでは、豊田章男社長がモリゾウの名で、急遽参戦を決めたことでも大いに話題となった。しかも、単にドライバーとして名を連ねただけでなく4スティントもの走行をトラブルなくこなしたのだ。やはりこのヒト、並じゃない。

豊田章男が語る、スープラの味

じつはレース前にはモリゾウ選手に、新型スープラで感じる“味”について聞くことができた。BMWとの提携により生み出されたスープラには、世間にはいまだ色々な意見があるが…。

「マスタードライバーとして乗ると、86もスープラもトヨタの味になってるんですよ。スープラの味は、私がスープラと感じるものである、ということですよ」

スープラを復活させるんだという強い決意の下、BMWとコラボレーションしながら、しっかりスープラと呼べるものができてきた。単純に、そういう話である。あえて補足するならば、トヨタ車でニュルブルクリンクでこれほど入念に鍛えられたクルマは、過去には80スープラしかない。通じるもの、あって当然なのだ。

↓↓モリゾウ選手のコメント動画は下記より

 思えばデビューから7年が経ち、86について今やスバル云々と渋い顔をする人はいなくなった。きっと新型スープラも、これからステアリングを握る人が増えるにつれて、誰もがこれぞスープラと認めていくことになるに違いない。

 

〈文=島下泰久〉