【解禁】乗ってわかったSKYACTIV-X搭載・マツダ3の長所短所

ドイツ フランクフルトで
その実力を試す

●SPCCIと呼ばれる、スパークプラグを用いた圧縮着火が特徴

ついにマツダ渾身の新しい内燃エンジン、その名も「SKYACTIV-X(スカイアクティブ・エックス)」をテストすることができた。日本導入のひと足先に、ドイツフランクフルト近郊の一般道で存分にテストする機会が得られたのだ。

ガソリンエンジンの夢と言われた圧縮着火を実現したSKYACTIV-Xが、従来の常識を打ち破る高圧縮比を実現したSKYACTIV-Gに続いて目指したのは、比熱比の向上である。簡単に言えば、空気に対する燃料の割合を少なくする、少ない燃料で燃焼させるエンジンにするということだ。しかしながら単純に空気量だけ増やしたのでは、うまく着火、燃焼に繋げることは難しい。圧縮着火は、まさにそれを可能とするために求められた技術なのである。

ほかにもこのSKYACTIV-Xには、高応答エアサプライ、Mハイブリッドなどなど、さまざまな新技術が投入されているが、世間的には今ひとつその意味は伝わっていないかもしれない。エンジン単体の実力が低いから、こうした補機類が必要なのだというような乱暴な言説も目にする。しかし、それは誤りだと言ってしまおう。SKYACTIV-Xを構成する複雑なハードウェアは、すべて確固たる理由と必然性に基づき、内燃機関の究極を現実のものにするために採用されている。そのあたりも、今回は解き明かしていきたい。

6速MTとSKYACTIV-Xの相性は?

試乗車はSKYACTIV-X搭載のマツダ3で、ギアボックスは6速MTと6速ATの2種類を試すことができた。まずはMT車から乗り込む。

アイドリングは非常に静かで落ち着いている。圧縮比16.3:1という前人未到の領域にあるエンジンでありながら、当たり前のように自然に回っていることに改めて感心させられてしまう。

小気味良いタッチのシフトレバーを1速に入れてクラッチを繋いでいくと、発進はきわめてスムーズ。アクセルのツキがよく、とても活発な印象がもたらされる。

その後は低音寄り、やや太めの音質を伴いつつ、心地よいビート感とともに吹け上がっていく。以前にプロトタイプに試乗した際には正直、音質は少々引っかかったのだが、SKYACTIV-Xはエンジンをカプセル化して音量を抑えている。おかげで、雑味なく心地よい感触になっているわけだ。

その後の回転上昇も軽快。特に6500回転あたりまでの高回転域でしっかりと伸び感を味わわせてくれるのがうれしい。じつは、そこには高応答エアサプライも貢献している。いわゆるスーパーチャージャーとして、必要なときにシリンダー内に多くの空気を送り込むこの高応答エアサプライがなぜ必要かと言えば、薄い燃料で燃焼させるリーンバーンエンジンの、特に高負荷域でのレスポンスの低下を補助するためである。

Mハイブリッドの仕事も、これと同じようなものだ。正直、バッテリー容量は1kWhにも満たないほど小さく、電気モーターだけで発進、走行するわけでもないから存在感は大きくない。しかしながらじつは、発進の際にはISGによりエンジン回転数をグッと素早く持ち上げ、シフトアップ時には発電制御によってエンジン回転を素早く下げ、変速時間を短縮するなど多彩な仕事をして走りのリズムを作り出している。

これらの背後にあるのは最近のマツダがさらに強く主張している人間中心の思想。操作に対して意のままに反応し、クルマとの一体感を高めるために、これらの技術は用いられているのである。

正直、トルクがもっと欲しい!

●センターディスプレーでは、SPCCI状態かそうではないか確認可能となっている

そんなわけでファーストコンタクトではなかなかの小気味よさを感じさせたSKYACTIV-Xだが、走らせるうちに気になる点も出てきた。一番は、肝心なパワー、トルクが物足りないこと。180馬力の最高出力はともかく224Nmという最大トルクはディーゼルやダウンサイジングターボ、ハイブリッドなど最近のパワートレーンに乗り慣れた身にはパンチも粘りも物足りない。小気味良く決まる6速MTを駆使して変速を繰り返して走らせるのも楽しいが、時にはリラックスしてゆったり走らせる歓び、あるいは地力を生かして高いギヤのままでもスーッと追い越しできる快感、家族や仲間と出かけるときの余裕なども味わいたいと考えると、せわしない運転になりがちだし、何より新しい何かに乗っているという実感が薄いのだ。せめて、250〜270Nmくらいあれば…。

6速AT仕様でも、基本的な手応えは一緒。必要になれば適宜シフトダウンされるからドライバビリティに大きな不満は感じないが、6速ATの各ギヤのギャップの大きさもあり、せっかくの新しいエンジンに乗っているという歓び、それほど濃厚ではないのだ。印象は“普通にとてもよくできたエンジン”である。

SKYACTIV-X搭載車の車両価格はディーゼルに較べても40万円ほど高くなる。ディーゼルとガソリンとの価格差は燃料代とエコカー補助金で多少は相殺できるが、SKYACTIV-Xの場合は純粋に気持ちよさ、満足感への代金である。筆者などは圧縮着火のガソリンエンジンに乗れる感動だけでもある程度の価値を感じてしまうが、一般的にはどうだろうか?

もちろん、このテクノロジーはまだまだやっとスタートラインに立ったばかり。マツダが信じる究極の内燃機関には、今後もたゆまぬ進化でダウンサイジングターボよりハイブリッドより、EVよりも明らかにいいと思わせてくれるものに進化していくことを期待したい。

そんな思いを込めて辛口で評価したが、一方でマツダ3のレポートに記したとおり、現状のガソリン、ディーゼルのパワートレーンには、特にガソリンはそのドラマのなさ、ディーゼルは今のレベルでは見劣りしてしまうようになった振動、騒音といった走りの質の面で少なからぬ不満を感じている私としては、もしマツダ3を選ぶなら、このSKYACTIV-Xにするだろうと考えたのも、これまた事実である。だからこそ、あと2割のトルク、もしくはプラス2段のギヤを切望してしまうのだ。

【試乗動画あり】乗って・試してわかった!「マツダ3の長所・短所」

〈文=島下泰久〉