ヤリスWRC、強さの秘密。開発拠点トミ・マキネン・レーシングに潜入した

TOYOTA GAZOO Racing WRTの
本拠地で見たものとは

ラリー・ドイッチュランドで前戦フィンランドに続く連勝を成し遂げたTOYOTA GAZOO Racing WRT (World Rally Team) のエース、オイット・タナックは、今回の結果でドライバーズランキングで追いすがるシトロエンのセバスチャン・オジェをさらに引き離し、いよいよ初のタイトル獲得を射程圏内とした。しかも今回、クリス・ミークが2位、ヤリ-マティ・ラトバラが3位に入り、表彰台を独占したTOYOTA GAZOO Racing WRTは、いよいよWRC最強チームの名を欲しいままにしつつあると言っていいだろう。

そのTOYOTA GAZOO Racing WRTの車両開発と実戦オペレーションを担うトミ・マキネン・レーシング(以下“TMR”)は、ここもまたタナックの優勝で沸いた前戦ラリー・フィンランドの舞台であるユバスキュラにほど近い小さな街、プッポラを本拠とする。筆者はまさにそのラリー・フィンランドの翌日、そのファクトリーを訪ねて強さの秘密を探ってきた。

●TMRのメインビルディング

正直なところ、そのファクトリーは「えっ、こんな所で最先端のWRCマシンを作れるの?」と思わずにはいられない、非常にのどかな郊外の一角にある。実際、プッポラは人口わずか1300人という小さな村なのだ。しかもメインビルディングは、少なくとも外見的には地方の大きめの一般家屋のようにしか見えないし、工場も見た目にはハイテク感などとは無縁。知らなければ、農機具などがしまってある納屋か何かのようだ。しかし当然ながら、その中身は最先端、最新鋭のオフィス、そしてファクトリーになっているのである。

●ヤリスWRCは、この工場のなかで日夜開発されている
●ファクトリー内部は、最新鋭の施設がそろう

4度のWRCワールドチャンピオンに輝くトミ・マキネンがTMRを創業したのは2003年。前年より加入したスバルのラリーカーとパーツの輸入、販売、そしてラリーカーの製作、メインテナンス、ラリーチームの運営を主たるビジネスとしてきた。

●TMRを創業した、トミ・マキネン

そんなTMRが、TOYOTA GAZOO Racing WRTと関係するようになるのは、2014年にトミ・マキネンがトヨタ自動車の豊田章男社長と出会ったのがきっかけ。豊田社長がドライビング指南を受けるうちに親しくなり、“トミ・マキネンの指導スタイルに故・成瀬弘マスターテストドライバーを重ねた”のだという。その流れで、翌2015年にトヨタがWRC復帰を宣言した際、チーム運営がTMRに任されることとなったのだ。

それから2年にも満たない2017年1月にTOYOTA GAZOO Racing WRTはWRC参戦を果たす。つまり車両開発期間はきわめて短かったはずだが、ヤリスWRCは初戦となったモンテカルロで早速表彰台を獲得するなど高い戦闘力を発揮する。トミ・マキネンいわく「スバル時代にはすでにほぼ開発されていた車両を扱っていたのに対して、現在はここでゼロから車両が開発されている」ことを考えれば、見事と言うほかないだろう。

もちろん、トミ・マキネンのリーダーとしての手腕は大きい。しかしそれだけでなく、さすがラリーが国技のような扱いのフィンランドであり、またトミ・マキネンという名前もあって、有能なエンジニアをすぐに多数獲得できたこと、そしてじつはユバスキュラ周辺には軍需産業も多く、優れた機械工場が存在していたことも貢献したようだ。

マシンは、トヨタのフランス工場から市販車のヤリスのモノコックがTMRに運び込まれ、それをベースに製作される。2カ月ほどもかかるという作業を経て徹底的に補強されたそれは市販車とはほとんど別物と言っていい。

マシンは3ドアを使うが、これはレギュレーション上、こちらの方がリヤフェンダーの加工可能範囲が大きいから。ライバルを見てもヒュンダイがi20クーペを投入しているし、フォード フィエスタもやはり3ドアとなっている。一方、シトロエンC3は市販車に3ドアがないため5ドアボディを使う。成績が今ひとつ振るわないのは、このあたりも理由のようだ。

当初はエンジン開発をTMGが行う以外、ほぼすべての組織がここユバスキュラのヘッドクオーターに置かれていたが、2018年夏にTMRはエストニア タリン近郊に前線基地を開設している。現在、ユバスキュラでは主に先行開発、WRCマシンの開発や製作が行われ、マーケティングやコミュニケーション、サービス、ラリーカーのメインテナンスなどはタリンを拠点とする。これは主にロジスティクス上の都合で、ヨーロッパ大陸からフィンランドに向かうにはフェリーを使わなければならず手間も暇もコストもかかるからである。

従業員は合計190人ほどで、そのうちユバスキュラに95人が在籍している。タリンには35人。その他に主にラリーチームの契約メンバーがいる。さらにTMGのエンジン開発陣もカウントすれば、やはり大規模のチームであることは間違いない。なお、トヨタ自動車との人材交流も行なわれており、数人のエンジニアが期限付きで在籍している。

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なぜユバスキュラに本拠地を置くのか?