このクルマがなければジムニーは生まれなかった! ホープ自動車・ホープスターON型 playback the magazine 1968

小さな自動車メーカーが最後に放った“怪作”軽自動車

写真のクルマはスズキの初代ジムニー……ではなく、初代ジムニー発売より3年前の1967年に完成したホープ自動車のホープスターON型という軽自動車初の4WD車です。一見よく似ていますが、それもそのはず、ジムニーの原型となったクルマなのです。
1960年代はモータリゼーションの拡大とともに、軽自動車にもさまざまなタイプが登場していった時代。そのさなかの1968年、常務だった鈴木 修氏(現会長)が「軽の特徴を生かしたユニークなクルマができないか」「360ccの軽でジープを作れないか」と検討を進めていく過程で、ホープ自動車社長・小野定良氏と鈴木 修氏の親交もあり、スズキはホープスターON型の製造権を譲り受けます。
そして、同車をベースにスズキ製のエンジン、ミッション、デフなどを用いた試作車を5台作成。その手応えをもって開発が進み、1970年に発売されたのがLJ10初代ジムニーだったのです。

●LJ10初代ジムニー。全長×全幅×全高:2995㎜×1295㎜×1670㎜ ホイールベース:1930㎜ トレッド:1100㎜ 車両重量:600㎏ エンジン:FB型空冷2サイクル直列2気筒 総排気量:359cc 最高出力:25ps/6000rpm 最大トルク:3.4㎏m/5000rpm 発売当時価格48万2000円
●こちらはホープスターON型。現代のジムニーに至るまで受け継がれているFRレイアウトのパートタイム4WD、ラダーフレーム、16インチの大径タイヤといった基本構成は、ホープスターON型の時点で形作られていた。カタログには「軽免許で乗れる不整地万能車」というキャッチフレーズが謳われた。

ホープ自動車は戦後に自動車修理工場から身を起こし、1950年代~1960年代に軽3輪、軽4輪メーカーとして活動しましたが、1965年に自動車生産から一度撤退。しかし、ホープ自動車社長の小野定良氏が自動車作りにかける情熱は消えず、1967年、一台の画期的な軽自動車を作り上げます。それがホープスターON型です。
だた、ホープスターON型は小数が販売されただけで(海外への輸出も試みられました)、ホープ自動車としては同車が最後のクルマとなってしまいました(その後、1970年代にホープ自動車は自動車業界から言わば完全撤退し、「ホープ」と社名を変え遊園地向けなどの遊具メーカーとして転身します)。

ホープスターON型とはどんなクルマだったのでしょうか? 同車で急傾斜を登り下りし、浅瀬にも飛び込んだ、1968年当時のdriver誌新車解説レポートを紹介します。


全輪駆動の“軽ジープ”

“ジープ”といえば、山坂や泥ねい地を駆けめぐる不整地万能車だが、これが軽自動車という枠内で完成したのだから、驚かざるを得ない。
製造元のホーブ自動車は、軽3輪、軽4輪の先駆者的存在である。昭和26年(1951年)に3輪車の製作にかかり、翌27年(1952年)に発表。29年(1954年)には2サイクルエンジン搭載車も登場させた。また、軽3輪への丸ハンドル採用もホープ自動車がほかに先行したものである。
一方、33年(1958年)には軽4輪の製作を始め、月産900台をものにしたが、大手メーカーの追い上げに対抗できず、最終的に生産を中止している。

以後、電気自動車やゴーカートなどの開発、生産に移行した。しかし、社長の小野定良氏は根っからのクルマ好き。「古い社員などは、私がまたいつか自動車を作るだろうという期待だけで勤続していたようなものですよ」(小野氏談)。こういう社員の期待にたがわず、“軽4輪ジープ”が完成。今年(1968年)4月末発売に踏み切ったのである。

ホープスターは日本の道路、特に農村の道路条件が対象とされ、“農民車”ともいうべきイメージで作りあげられたものだという。
現在、設立して間もない新工場で生産中であるが、月産数十台という小規模なもの。アフターサービスの面を考慮すると、各地に売りまくることもできず、一応業者を介しての販売に甘んじているという。生産車というより、むしろ『ホープ健在なり』を世に訴える、小野氏のクルマに対する執念の産物のようである。

このホープスターON型は、軽自動車という枠のなかで4輪駆動を取り入れたのが最大の特徴である。トランスファー・切り換えレバーの操作だけで、一般道路と不整地を、後輪駆動と全輪駆動に使い分けて走ることができる。

●地上高が高いので水にも強く、50㎝くらいの深さまでは大丈夫とか。
●全輪駆動の強みを発揮して堤防を登る。カタログ記載の登坂能力は約38度、最大傾斜角は41度。

またパワー・テイク・オフ(動力取出装置)を設けてあるので、後ろ、上、左右の各方向に動力を取り出すことができる。これにオプションパーツを取り付けると、ウインチ作業(常用吊り上げ能力500㎏、瞬間最大吊り上げ能力1t)や、溶接、揚水などの特殊作業も可能である。

●エンジンは21馬力を発揮する空冷2サイクル2気筒の三菱ミニカ用を搭載。
●計器類は一般のクルマと変わらぬ簡素なもの。ハンドルだけは軽3輪用を流用してある。ホロを外せばフロント・ウインドウは前に倒せて、夏のレジャーにも適する。

ブレーキはフット、ハンドのほかにセンターブレーキを備えた3系統である。価格は55万円(*)。

ホープスターON型 諸元

全長:2995㎜
全幅:1295㎜
全高:1765㎜
ホイールベース:1950㎜
トレッド:1100㎜
最低地上高:240㎜
荷台全長:985㎜
荷台全幅:1218㎜
荷台全高:381㎜
乗車人員:2名
車両重量:620㎏
タイヤ:600-16 6PR

最大積載量(登坂時):250㎏
最高速度(後輪駆動):70㎞/h
最高速度(全輪駆動):30㎞/h
登坂能力(250㎏積載時):sinθ0.616(約38度)
最小回転半径:4.5m
最大傾斜角度:41度

総排気量:359cc
内径×行程:62㎜×59.6㎜
圧縮比:7.6
最大出力:21ps/5500rpm
最大トルク:3.2㎏m/3500rpm
潤滑方式:分離給油式
燃料タンク:20ℓ

クラッチ:乾式単板式
変速機:ダイレクト・シンクロメッシュ前進4段・後退1段
副変速機:2段切換スライディングメッシュ 高速(後輪駆動)・低速(全輪駆動)
動力取出装置:主軸後方・ベベルギヤ上・左右各方向 変速4段 逆転1段
ブレーキ:全輪内拡足動油圧式・後輪内拡手動式・センタードラム内拡手動式

─1968年ドライバー8月号より─

*1968年当時、大卒初任給は月給3万600円、たばこの価格が50円(ピース10本)、板チョコ1枚50円、東京都内のラーメン一杯の平均価格は77円。また普通車のカローラ4ドアセダン(STD)が45万7000円、軽のスズキフロンテ360が31万8000円、同じく軽のホンダN360が31万5000円で、ホープスターON型は軽自動車としては高額な車両だったといえる。

2018年7月、4代目へとモデルチェンジしたスズキ・ジムニー/ジムニーシエラの発表会では、鈴木 修会長からジムニーへの思い入れについてメッセージが読み上げられ「東京駐在時代、ホープ自動車の小野さんから360ccで富士山の8号目まで登っていくことができるというお話をうかがった。その映像を見ると、小さなクルマがグイグイと急斜面を登って行くではありませんか。その力強さと性能に惚れ込んだ」というホープスターON型とジムニー開発に至るエピソードが紹介された。

(まとめ●オールドタイマー編集部・上野)

参考文献:鈴木自動車工業株式会社70年史