【マツダのミスターエンジンが語る_その2】「Well to Wheel」で考えるとEVがエコでなくなる!?

世の中の自動車メーカーが電動化へ向けて大きく舵を切っているさなか、かたくなに内燃機関の進化にこだわり、その可能性を拡げるための開発を続けているのがマツダである。Part.1では「サステイナブルZoom-Zoomフォーラム2019 in 横浜」でシニアイノベーションフェローの人見光夫氏が内燃機関の将来性について語ったのを軸に解説した。

Part.2では、なぜマツダが電動化ではなく内燃機関の開発に投資し、その進化にこだわるのか? 講演のなかで人見氏が、”現在の電動化への政策に隠れる負”の部分に触れた内容を、戸田治宏氏が解説する。

 


■Part.2 EV政策で見せない落とし穴


 

●マツダ常務執行役員・シニア技術開発フェロー 人見光夫氏

2050年までに90%のCO₂排出量削減を目指すのはもちろんマツダに限らず、世界の自動車メーカーが同様の目標を掲げている。現在それを実現する一番の切り札とされるのはEVで、世界中で業種の枠を超えた開発競争が繰り広げられている。人見さんの講演では昨年と同じく、その有用性の考察も行われた。

 

●マツダは、2017年8月に発表した「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言2030」で、燃料採掘から車両走行まで視野に入れたWell-to-Wheel視点での総CO₂排出量に着目し、地球環境負荷軽減を目指すとしている

EVのCO₂削減効果は発電から見ないといけない

人見さんはEVのCO₂削減効果について、非常に懐疑的な立場をとっている。その論拠は、マツダがかねてから主張している「Well to Wheel(燃料採掘から車両走行まで)」の考え方にある。EVのwell、つまり石油を採掘する井戸にあたるのは発電所だ。

「EVはCO₂なんか出さないと思われています。走っている時は出さないんですけども、電気を発電するところで出すわけですから、それをカウントしないとおかしなことになるんです。出しているところをゼロと見なすと、環境政策として進む方向を見誤ってしまう。ガソリン・軽油にしても井戸ですね、原油がある、そこを掘り起こして精製してガソリンスタンドに運んで、それから(クルマの燃料)タンクに入れて走るというところまでを全部見て、CO₂をどれくらい出すかというのを見ないといけない。だからEVも発電するところからちゃんと見ないといけない」

そこで会場のスクリーンに示されたのが、先代デミオを例にしたガソリン車とEVのCO₂排出量の比較だ。ガソリン車は2011年に初めてスカイアクティブGを搭載した「13スカイアクティブ」で、燃費はJC08モードで25.0km/L。100kmあたり4Lになる。一方、EVは2012年から地方自治体や企業にリース販売された「デミオEV」だ。こちらの電費は同じくJC08モードで100kmあたり10.5kWh。

●マツダがリース販売した「デミオEV」を基に、EVの電費およびCO₂排出量を算出。同時期に販売していたデミオ 13スカアクティブと比較した

この数値と、ガソリン精製と発電所の平均的な発電に伴うCO₂の排出量を元に、両車が走行時に排出するCO₂の量を計算してみる。するとガソリン車は1kmあたり109gで、EVは66g。EVのほうが4割も少ない。

「カタログで見ますとね。あの、カタログ値いうのはウソという意味じゃないですよ。法律で決められたとおりの走り方をしたら、出てくる数値ですから。皆さんが乗っても法律で決められたとおりに走ってもらえりゃ、近いのは出るんですけど(会場笑)。ああいうふうに走るのはなかなか難しいんですよ」

そこで一般ユーザーの実用燃費をウェブサイト「e燃費」のデータで見ると、13スカイアクティブは148g/km。JC08モードより36%悪くなる。そして、デミオEVも同じような走行モードを設定して電費を計測すると108g/km。こちらは63%も悪化する。EVはエアコンを使うだけでも、ガソリン車以上に燃費に影響する。これでEVのガソリン車に対するCO₂排出の削減量は、モード燃費比較の4割から2割に減る。

さらに人見さんが示したのが、発電手段ごとに見たCO₂排出量のグラフ。先ほど「発電所の平均的な発電」と言ったが、火力発電には石油、石炭、LNG(液化天然ガス)といった燃料が使われ、それぞれクリーン性が異なる。石炭は低コストで調達が比較的容易な半面、環境への負荷がもっとも大きい。そこまで考慮すると、EVの実用燃費で石炭発電の電力を使ったCO₂排出量は162g/km。なんとガソリン車より増えてしまう。

EVの“不都合な真実”は、まだもう一つある。

 

●デミオEVに搭載されたリチウムイオンバッテリー

バッテリー製造で出る驚きのCO₂排出量

「バッテリーですね。リチウムイオンバッテリー。これ、製造時に皆さんびっくりするくらいCO₂出るんです」

ここで海外のいくつかの機関による研究データが示された。バッテリー製造に伴う1kWhあたりのCO₂排出量は、もっとも少ない数値を報告している機関でも110kg、多いところでは120~250kg。これだけでも相当な量だ。機関によって数値にバラつきがあるのは、発電所の火力発電比率によるものとか。以下のケーススタディではEVの不利にならないよう、最小の110kg/kWhと仮定する。

もちろん内燃機関のクルマでも、パワートレーン製造時にCO₂が排出される。エンジンとトランスミッションで計1274kg。EVでそれにあたるのはモーターとインバーターで、こちらのほうが計1711kgと多い。ケーススタディはこれをとんとんと見なし、バッテリー以外の差は無視して進められた。EVにとって少なからず有利な条件だ。

「そうすると、さっき110kg/kWhと言いましたね、平均で。40kWhのバッテリーだとこれの40倍です、4.4t。日産のリーフのようなバッテリーを1個つくるのにCO₂を4.4t出すわけです。20万㎞走るとしたら、1kmあたり22gのCO₂を出すという計算になります。

(別のグラフを示して)それをここ(実用燃費のCO₂排出量)に載せますと、さっきとだいぶイメージが変わってくると思います。内燃機関が12%くらい実用走行時の燃費を改善したら、(火力発電の電力を使ったEV実用燃費の平均排出量に)もう追いつくということです。だからプリウスなんか電気自動車よりも絶対にいいです。(中略)火力発電で一番きれいなLNGでも、34%くらい改善すれば追いつきます」

 

EVはバッテリーの大容量化でCO₂排出量も増加

しかも、EVは航続距離が短い弱点を克服するため、大容量化を目指す方向にある。そうなると、バッテリー製造時のCO₂排出量がさらに増えることになる。容量が40 kWh から70kWhに大きくなった場合、内燃機関はLNGに対しても26%の改善で追いつくという。

「EVは充電時間が長いという問題もあります。あれをアッという間にできる次世代バッテリーが話題になっています。あれになると、同じバッテリーを製造するのにもっとエネルギーを食うんです。湿度を徹底的に嫌うので、除湿するのにとてつもない電力が要ります。長く走れるようになってもCO₂を多く出していますよ、石炭で発電したものなんかとんでもないと。走らせれば走らせるほどCO₂を多く出すんだという状態になるんです」

薪など植物由来のバイオマスエネルギーには、成長過程で大気中のCO₂を吸収しているため、燃料にして燃やしてもトータルのCO₂量は変化しない、「カーボンニュートラル」という考え方がある。EVが大容量バッテリーの製造で排出されるCO₂を生涯の走行で相殺できないとなると、ニュートラルどころかカーボンネガティブ。バッテリーの進化がトータルでCO₂排出量の増加を招くとすれば、じつに皮肉な話だ。

人見さんのケーススタディは続く。

EVが環境にいいなら、増えないと意味がない。今度は、内燃機関車をEVに代替することで燃料と排出するCO₂の半減を目指し、EVの電力には太陽光や風力の発電を用いる場合だ。スタディを要約すると以下のとおり。

2013年のデータを見ると、全世界のクルマがこの1年間で排出したCO₂は“Well to Wheel”で1.82億t。これを換算すると、2056億kWhの電力を太陽光・風力発電でまかなえれば、すべてのクルマをEVに代替できる。ここでは半減を目指すので、1028億kWh。ただし、これはカタログ値。実用走行では、バッテリー製造時を考慮しないで1241億kWh。世界全体でクルマが排出するCO₂を0.91億t削減できることになる。

 

太陽光・風力発電の電力をクルマではなく
火力・石炭発電の削減に割り当てた方が
CO₂削減効果は大きい

なら、それをEVではなく火力発電を減らすことに使ったら、どれくらいCO₂を削減できるのか。世界全体の発電量は9397億kWhで、1241億kWhはそのうち13%。CO₂も13%少なくなり、0.76億t減になる。クルマ削減量はさらに多い0.91億tだから、太陽光・風力発電で得られる電気はEVに使ったほうが環境にいい……。

しかし、ここにも火力発電の数字のマジックが隠れている。石炭を使った発電のCO₂排出量は2.68億tで、これだけでクルマの総排出量を上まわる。太陽光・風力発電の電力をこちらにまわせば、石炭発電分のうち1.17億tを減らせるというのだ。つまり、EVに使うよりも効率よくCO₂を削減可能。さらにEVのバッテリー製造分を考慮すれば、削減量は1.4億tにもなるという。

「それなのに0.91億tのほうを選ぶというのが、(今の)電気自動車政策ということになるわけです」

こうした“勘違い”は、発電の主力が原子力のフランス、水力のカナダなどのような、火力発電比率の低い国にも見られるという。

「何となくわかったような人のために、これでわからなかったらわかるのをあきらめてくださいという例を作りました(会場笑)」

その最後の部分だけ紹介すると、ある人が300万円の借金をしている。利子は3%。ただし、銀行は1つではなく、3つの銀行から借りている。内訳は、天然ガス銀行が140万円で利子2%、石油銀行も140万円だが3%、そして石炭銀行は20万円と少ないが10%と高利。そして、ある時10万円手に入ったら、どこを先に返すべきか? この返済額にあたるのがCO₂排出量だ。

「いくら全体(の利子)が安くても、10%というのがわずか20万円でもあれば、こっちを先に返すべきだと思いません? 胸を張って何も考えずに、(ほかの)こっちからやるというのが、今の世の中の実態です。ここだけ覚えて帰ってもらえば、もう十分です(会場笑)」

ついでに、EVはゼロエミッションでもないと人見さん。東京都の2017年環境白書によれば、PM(粒子状物質)の排出量に占める割合はクルマのエンジンが7%、タイヤ・ブレーキは24%。EVは回生ブレーキを多く使うため内燃機関車ほどブレーキダストは多くないかもしれないが、そう言われれば車両全体としてPMを排出することは間違いない。

「貴重な太陽光・風力発電、CO₂が出ない発電。この電力は自動車に回していただくよりも、石炭発電を減らす、さらに火力発電を減らすというのに使って、クルマはクルマのほうで2割3割改善にみんなで務めると。そうすると両方でCO₂が減るわけです。クルマは何もしなくていい、電気にしてやるよというよりは、圧倒的に効率的に、圧倒的に経済的にCO₂が減っていきます。これはさすがに、そのうち理解されるんじゃないかなと。そうすると政策が変更される可能性があると思っています。(中略)

火力発電所がなくなって、まだ太陽光・風力発電に余裕ができるような状態がもしできたら、そのときはEV、自動車まで電気化するのはいいと思います。で、再生可能な液体燃料をしっかり開発して、これが豊富に生産され、全部の自動車がこれでまかなえるようになったら、これで火力発電をしてもいいんじゃないか。どっちが早いかで決めればいい、そう思っています」

 

広く状況を見て環境のための最良策を考えるべき

EVの環境性を「Tank to Wheel」で捉えていた人の既成概念を根本から突き崩す、ミスターエンジンの考察。もちろん、ほかのメーカーや技術者の意見にも耳目を広め、CO₂排出量削減を地球レベルで実現する最良の方策を、ユーザーも一人ひとり考えてみることが大切だ。

人見さんが現在のEV政策に反対しようと、マツダもそれを推進する国々にEVを導入していく。各国の環境政策に則ってビジネスを続けるためだ。

いくら見識の高いエンジニアがいようと、最先端の技術力を持つメーカーがあろうと、それが活かされるかどうかは政策、国の舵取りにかかっている。(今回のイベントの開催は)時あたかも日本初開催のG20で、環境・エネルギーに関する会合が長野県軽井沢で行われたばかり。日本の行政には民間の技術力にあぐらをかかず、政策を実態に則した正しい方向へ導く世界的リーダーシップを発揮してもらいたい。(やっぱ無理!?)

 

●東京モーターショー2019でマツダはEVの発表を予定している。内燃機関の高効率化に重きを置くマツダのEVは、いったいどのようなものになるのか。注目だ

 


文=戸田治宏

軽自動車からスーパースポーツまでジャンル不問。確かな分析力に裏打ちされたわかり安いインプレッションが身上の文筆家


 

【マツダのミスターエンジンが語る_その1】内燃機関にこだわる理由