万が一の事故で役立つ「EDR/CDR」を知る!ドライブレコーダーでは見えない車両状況を記録する

ドライブレコーダーを付けていれば安心?
EDR/CDRでより正確な事故解析が可能

2019年の夏は、お盆休みのころから“あおり運転”がニュースになっている。これらはドライブレコーダーの映像がきっかけで話題になり、その後運転者が傷害容疑で逮捕され、現在も捜査が続いている。どうやらあおり運転での暴行容疑も視野に入れているようだ。

テレビのニュースなどで流れた映像を見て、ドライブレコーダーを装備していれば客観的な証拠が残せるから安心、と考えている方も多いだろう。確かに重要な場面の映像が記録でき、クルマの動きや信号の状態など周囲の状況もわかる。だが、あおり運転から事故に発展した状況ではどうだろう。室内の状況を記録するインカメラが付いていれば、ステアリングの操作状況などはある程度わかるが、ブレーキを操作していたのかアクセルを踏んでいたのかまではカメラに映らない。

アクセルとブレーキの踏み間違いによる事故でも、事故に至るまでの映像はドライブレコーターで記録できるが、ペダル操作のことまではわからない…。ところが、こうしたクルマの操作状態などがわかる機能がある。しかも、ほとんどのクルマに標準搭載されていながら活用されていないのだ。

それがイベントデータレコーダーだ。頭文字を取って“EDR”と呼ばれる装置で、約20年前に発売されたクルマから搭載されている。それ以前のクラシックカーやネオクラシックカーなどには搭載されていない可能性があるが、街を走っているほとんどのクルマに搭載されていると考えていい。航空機の事故解析に使われる“フライトデータレコーダー”、いわゆるブラックボックスと似たものが、じつはすでにクルマにも搭載されているのだ。

このEDRについて、モータージャーナリスト向けの説明会が、ボッシュによって行われた。まず、EDRはプライバシーを考慮して画像や音声データは記録せず、クルマの作動状況などの各種データを記録する。

EDRで事故前後の車両操作状況がわかる

記録されるデータは車両速度、アクセルペダル操作、エンジンスロットル開度、エンジン回転数、モーター回転数、ブレーキペダル操作、ブレーキ油圧、加速度、ヨーレート、舵角、クルーズコントロールなど多岐にわたる。20年前のEDRだと記録できる項目は少なくなるがアクセルを操作していたか、ブレーキを踏んでいたかなど基本的な情報が記録されているから、事故状況がわかり、重要なデータを取り出せる。ちなみにフェラーリは自車速度もプライバーの一部と考え、EDRに記録していないそうだ。

●CDRレポートの例。これでEDRが記録したデータを解析できる

EDRがこれらのデータを記録するのは、エアバッグが展開するような衝突事故の約5秒前から。さらに事故発生時からエアバッグの展開完了までの状態も記録している。システムによって異なるが、データを記録するのはフレームに一定以上の衝撃が加わった時で、記録できるイベント回数は非展開イベントも含めて最低でも2回。この回数は各自動車メーカーや世代によって異なる。例えば最新のトヨタに搭載される第4世代のEDR(17EDR)はプリクラッシュを含む4回、側面衝突はポストクラッシュ(衝突発生)のみで4回、ロールオーバーはプリクラッシュを含む2回の合計10イベントを記録する。現在、すべての自動車メーカーのなかで最大の記録数だという。トヨタ(レクサス含む)の第4世代なら、仮に10回ぶつかってもそれぞれのデータが残ることになるわけだ。

クルマ好きならこうしたEDRのデータが取れることは知っているだろう。だから自動車ディーラーに頼めばOBD(オン・ボード・ダイアグノーシス)Ⅱの端子からデータを読み出してくれる、と考えている人も多いのではないだろうか。しかしこれは間違いだ。ディーラーはEDRの読み出しができないことが多いし、メカニックによってはEDR自体の知識が乏しいこともある。

EDRのデータを取り出す
CDRを扱うのはボッシュだけ

ではどうすればデータを確認できるのか。事故が起き、ドライブレコーダーでは判断できないペダルやステアリングなどの操作を記録したEDRからデータを取り出すのがCDR(クラッシュ・データ・リトリーバル)である。

じつは、このインターフェイスケーブルなどのツールとソフト(ウィンドウズ対応)を開発しているのが、メガサプライヤーのボッシュなのだ。2000年からCDRを手掛けているというから約19年間の技術と知見の蓄積がある。現在、ボッシュだけがCDR関係の事業を行っている。なぜボッシュだけなのか? それは、裁判のデータとしても使えるEDRのデータを読み出すCDRは、公正でなくてはならいない。ボッシュは有名だが、株式を公開していない非上場企業。ほかからの資本を受け入れていない、唯一の独立したメガサプライヤーなのだ。だから公正、公平性が保たれるわけだ。

●ボッシュのCDRインターフェイス。EDRのデータ取り出しに用いる

CDRのデータ取り出しは、ボッシュがトレーニングして資格を与えたCDRアナリストにお願いする。フロント側が破損する程度の事故ならOBDⅡの端子にCDRインターフェイスケーブルをつなげばいいが、車両が大破してOBDⅡ端子から読み出せない場合もある。その場合はエアバッグECUに直接つなぐことでデータが読み出せる。大事故でクルマの電源が消失した場合、エアバッグECU内のコンデンサーに蓄えられた電気でデータを記録するバックアップ体制がある。読み出せない可能性があるのは火災が発生した場合と水没事故。特に海に水没してしまう事故ではデータを読み出せこともある。

●車両が大破してOBDⅡからデータを取り出せない場合でも、エアバッグコントローラーからEDRのデータを取り出せる

データ利用はクルマのオーナーの権利

データを読み出すときには、データのすり替えが起こらないように、どの事故車のECUから読み出したのか写真やビデオに撮って保存しておくことも大切だ。こうした作業もCDRアナリストに任せられる。EDRのデータはドライバーとクルマのオーナーのもので、これを利用するのは権利の1つ。EDRやCDRを知らないとその権利を行使できないわけだ。ボッシュ認定工場の“ボッシュカーサービス”に依頼すればCDRが可能。例えば事故が刑事事件となった場合、クルマを証拠として差し押さえられる前にCDRアナリストによってデータを読み出してもらうことも重要である。

ドライブレコーダーだけで大丈夫と思っていてはいけない。EDR/CDRでさらに詳細な車両状態を把握できる。万が一に備えてEDRとCDRを知っておくことが大切なのだ。

 

<文と写真=丸山 誠>