「R30」6代目スカイライン開発ストーリー 桜井眞一郎が語る『魂を込めたサスチューニング』

●R30スカイライン開発の指揮を執る桜井眞一郎氏(中央)。1929年4月3日、神奈川県生まれ。プリンス自動車時代よりスカイラインに携わり、3代目「ハコスカ」で開発責任者となる。以降7代目「セブンス」まで一貫して総指揮を執った。

高性能バージョンの2000RSや2000ターボRS、鉄仮面の愛称でおなじみの後期型などが特に人気を集め、今なおファンが多いR30スカイライン。2000ターボRSには「史上最強のスカイライン」のキャッチフレーズが与えられるなど、走りの良さも評価が高かった理由のひとつでしょう。
“走り”というとエンジンに注目が行きがちですが、R30スカイラインのスポーティさを支えていたのは徹底的に作りこまれた足まわりでした。デビュー直後の1981年8月、開発トップを務めた「ミスタースカイライン」桜井眞一郎氏によって語られた言葉を紹介します。

●「New愛のスカイライン」のキャッチフレーズで、1981年8月に発売された「R30」6代目スカイライン。イメージキャラクターに熱心なカーガイでプロレーサーとしても活躍した俳優・ポール・ニューマンが起用され、ファンからは“ニューマンスカイライン”とも呼ばれた。ボディタイプはハードトップ、セダン、ハッチバックを設定(写真はハードトップ)。

イメージリハーサルから開発はスタート

──まずニュー・スカイラインの開発の経過について教えて下さい。

桜井眞一郎(以下、桜井) 開発にあたって、どういう方向にクルマをまとめるか、スタッフのイメージがばらばらでは困りますので、私のイメージを伝えるべく、言葉でスカイラインのイメージ・スケッチをしました。これがコンセプトにもなるわけですが……。

ちょっと読んでみましょうか。ひとりの男がいる。ひとりの女がいる。ふたりは付き合い始めて5~6年になります。男は30を超えている。小さな会社のオーナーだ。デザインの仕事、あるいは貿易関係の仕事かもしれない。女は職業を持っている。生活のほとんどはその仕事で占められている。

ふたりはニュースカイラインで湯元温泉の洒落たホテルに行く約束をする。だが、仕事が入ってしまって男は行けない。女ひとり列車で先に行く。稲妻が光り、雷鳴が轟く。男は夜半に仕事を終えると、スカイラインのイグニッションキーをひねる。中禅寺湖までの日光いろは坂、ウインドグラスを大粒の雨が叩く。アクセルを踏み込む。咆哮を上げてそれに応えるエンジン。ヘアピンでステアリングを切る。素直に向きを変え、タイヤががっちりと路面をホールドする……。

*開発にあたって桜井氏は膨大な文章量となるコンセプト・ストーリーを書き下ろしていた。このストーリーは開発メンバーから『戦場ヶ原の稲妻』と呼ばれていた。

──いつもこのようにしてクルマのイメージ作りをするのですか?

桜井 ええ、変わったやり方かもしれませんが、スカイラインはそうです。道具の域を脱して人間の手足のように動くクルマ。スカイラインを作るときには、いつもこう考えているんです。

大切なのは走りの性能ですね。直進安定のいいクルマはそうザラにないんですよ。今度のスカイラインは足まわりの改良にうんと力を入れました。試作車で何回もテストして、私も夜に村山のテストコースを走りましたが、あそこが悪い、ここが悪いって言いまして、何度もやり直させましたですね。おかげで、外国人の一流レーサーに乗ってもらいましたら、すばらしい足だって、絶賛してもらえましたね。

旧型のスカイラインはですね、ターボのパワーに足が負け気味なところがありましてね、これじゃあいかんと。私は、クルマっていうのはいつでもパワーよりも足の性能が上まわっていないといけないと思っています。それで、直進安定のいい足にしました。

──その辺をもう少し具体的に教えて下さい。まず、FRとFFとどっちをとるかという点です。ちまたではFF絶賛のムードですが、決してそうではないと思うのですが、いかがでしょう?

●ハードトップ2000GT-E・Sの透視イラスト。フロントサスペンションはマクファーソンストラット式独立懸架。リヤサスペンションはGT系がセミトレーリングアーム独立懸架(ターボ車はスタビライザー付き)、TI系が4リンク式コイルスプリング。

桜井 私は、グランツーリスモにはFRをとりますね。たとえば、自然というのは、ひとつの力学法則にかなってできているわけです。動物たちを見て下さい。彼らは後ろ足で大地を蹴って走ります。神の創造した動物で、前足で蹴って走る動物はいないわけです。

クルマもそうです。走り出すときはウエイト・トランスファー(*)がありますから、駆動力は後輪に伝えたほうがいいわけです。ただし、小さなクルマで広い居住性を取るにはFFだと思いますよ。それからですね、FRのほうがZ軸まわりのイナーシャ(*)を小さくできます。操縦安定性がよくなりますね。もちろん、FRがベストではなく、少しフロントが重い。やはりベストはミッドシップでしょう、レーシングカーはみなそうです。

*ウエイト・トランスファー:加速の際の荷重移動のこと。シートに押しつけられることでも実感できる。後輪の荷重が増え、スリップしにくく、駆動力を有効に伝えられる。

*Z軸まわりのイナーシャ:クルマを上から見たとき、重心点を通る垂直な軸まわりの慣性質量。これが小さいほどシャープな操縦性になる。FFではこれが大きくなる傾向がある。

>>持てる力を注いだサスチューニング