1972年東京モーターショーに出展された幻の日産ロータリー車「NISSAN ROTARY」開発秘話

「ロータリーエンジン車を来年秋に発売する」──1972年1月、日産の川又社長の発表は大きな反響を呼んだだけでなく、同年10月に開催された東京モーターショーへサニーエクセレントのシャシーをベースとするロータリーエンジン専用車を参考出品した。

●参考出品されたモデルはその名もズバリ「日産ロータリー」。車体のベースにサニーエクセレントクーペが用いられたことから、「サニーロータリー」「サニーロータリークーペ」などと呼ぶ人もいた。

『日産は西ドイツのアウディ・NSU・アウトウニオン社から1970年10月にロータリーエンジンに基本特許を導入、実用化を進めているが、現時点でほぼ試作を完了。今年(1972年のこと)秋に開かれる東京モーターショーにこの試作車を出品する。
実際の発売は技術的な問題も残っており、1年程度のテスト期間が必要なため来年秋になる。ロータリーエンジン搭載車は現在のサニークラスでスポーティタイプになるが、販売台数などはまだ未定』

と、かなり具体的な内容を告げた川又社長の発表通り、東京モーターショーの会場には黄色いロータリー搭載車のコンセプトモデルが登場する。しかし、このコンセプトモデルは決してハリボテなどではなく、日産が本気でロータリーエンジン搭載車の開発に取り組んでいたことを示す言葉が残っている。

それは上記の社長発表直後、当時の日産で新型車開発を取りまとめていた設計開発本部の真木次長に行ったインタビューで、「ロータリーの研究・開発は1960年代から進められていた」というのだ。残念ながら日産のロータリー市販車は世に送り出されなかったが、ロータリーを物にしようとしていた日産の“本気度”が伺える開発秘話を紹介する。


ロータリーは環境対策エンジン開発の一環なのか?

──1975年から実施されるアメリカのマスキー法(排ガス規制)を乗り切れる無公害エンジンの開発はメドがつきましたか? トヨタはマスキー法に合格する装置の開発実験に成功したと報道されていますが。

真木次長 正式な形で発表されたんじゃないと思いますね。当社でもレシプロエンジンを中心にロータリー、ガスタービン、ベーパーエンジン、電気自動車といったものを開発しています。現在600名以上のエンジニアが取り組み、1971年は約60億円の予算を投入していますよ。排気ガス対策の主体は現在のレシプロエンジンの改良ということで、いろんなシステムを研究・開発しているのが現状です。

──川又社長がロータリーエンジンの試作をやっており『今年(1972年のこと)のモーターショーに参考出品する、1年ぐらいテストして来年秋に発売する』と発表して大きな反響を呼んでいます。サニークラスのスポーティカーに載せるということまで明らかにされていますけど、このロータリーエンジン車は無公害エンジン開発の一環としてなされているわけですか?

真木次長 ちょっと理屈っぽくなりますけど、ロータリータイプのエンジンは数百種類もあるわけで、そのなかで西ドイツのバンケル博士が実用化したロータリーエンジンはレシプロエンジンに比べ往復運動が無い、回転だけでやるというのは技術屋にとってはひとつの夢ですね。だからロータリーエンジンは振動上有利で、回転のスムーズさが最大の特徴と言えるでしょうね。
当社もNSUからロータリーエンジンの製造権、ノウハウを含めて導入しましたが、排気ガス対策の決め手ということではなくて、新しい内燃機関のひとつとして開発していこうとしているのです。

●ドライバー1972年4月20日号(3月20日発売)、日産車特集内で「ニッサン・ロータリーはここまで開発されている」と題して展開されたインタビューページ。インタビューに応えたのは日産の新型車開発と取りまとめていた設計開発部・真木次長。

ロータリーエンジン開発のメリットは?

──60億円の予算と600名以上のスタッフで研究・開発されている排ガス対策のなかにロータリーエンジンも入っているんですか?

真木次長 ええ、候補として入っていると言っていいでしょう。

──率直に言って、ロータリーエンジンを開発されるメリットというのはなんですか?

真木次長 基本的にはNOx(窒素酸化物)が少ないこと、それから振動上有利な点。それに、これは今すぐということじゃないけれども、潜在的メリットとして考えられるのはクランクシャフトから下の部分、要するに下半身のスペース的な面ではレシプロとほとんど同じですが、クランクシャフトの上のエンジンルームのスペースは、将来排気ガス対策のいろんなものを付けていくときに、スペース上有利になるんじゃないかというのが、ひとつのメリットとして考えられているわけです。

──エンジンそのものがコンパクトだという点ですね。

真木次長 クランクシャフトから下半身はそう問題にならないが、上半身ですね。

──排気ガス対策のみではなく、新しい内燃機関として開発していると言われましたが、ロータリーエンジンのフィーリングとか、コストダウンというような点もあるのではないですか?

真木次長 コストの点から言うと、やはり高くなると思います。ロータリーエンジンはすでに商品化されているものですし、フィーリングや性能上の問題はすでにさんざん議論し尽くされているものです。言い換えるとメリットがデメリットを上回ったから商品化されたといってもいいでしょう。ロータリーの魅力といえばなんといっても性能面のスポーティさですね。エンジン回転は振動の面も含めてとてもスムーズです。それにレスポンスが良いと言えるでしょう。

──川又社長が発表されているように、来年(1973年のこと)秋発売ということになると、排気ガス対策も1974年なり1975年の規制値にミートしたものになっているということですね。もしそうだとすると、コスト面ばかりでなく、乗り心地をいかにして損なわないで規制にミートしたものを作るかということになると思うんですが、東洋工業ではこの点「ある程度メドはついた」と言っています。日産の場合はどうですか?

真木次長 まだ開発の段階で将来のこともいろいろ考えて折り込むことはやっております。けれども今すぐどういう結果が出てくるかということは、まだ発表の段階ではありません。

>>なぜロータリーをサニークラスに搭載するのか?