テインの世界戦略製品はなぜ車高調ではない!?「EnduraPro(エンデュラプロ)」にかけるこだわりとは?

世界戦略製品が車高調ではない事実とは?

「テインの世界戦略製品」と聞けば、誰もが車高調整式のショックアブソーバーをイメージするはず。車高調(シャコチョー)は読んで字のごとく、ショックアブソーバーに設けたねじ部のスプリングシートを上下に調整することで車高を自由に変えられる機構のこと。同社のショックアブソーバー製品の販売割合の93%を車高調整式が占める(2018年度)。

ところが、テインの世界戦略製品は主力の車高調ではなく、純正形状ショックアブソーバーの「EnduraPro(エンデュラプロ)」シリーズだ。純正形状のメリットとしては、
1:車高調に比べて部品点数が少なく機構がシンプルな分、リーズナブルでメンテナンスが容易
2:ストロークを確保しやすい
3:純正のばねを流用できる
などが挙げられる。車高調に比べてスペック的にはやや地味なものの、車高を変えずに自分好みの乗り味やハンドリングが得られることから、根強い人気がある。

なぜ世界に打って出る製品が純正形状なのか。その理由は先進国では車高調整式ショックアブソーバー市場が縮小傾向にあるのに対し、新興国など路面環境が整っていない地域では純正アップグレード/エンハンスメント(改良・強化)のニーズが高まっているから。

車高調整式ショックアブソーバー市場におけるテインのシェアは、国内40%以上、中国とアジアが20~30%、グローバルで10%程度。一見安泰のようだが、国内では少子高齢化や若年層のクルマ離れ、車高調のターゲット車種(スポーツカーなど)の減少など、車高調を取り巻く状況は年々厳しさを増している。

高耐久で上質な乗り味の需要がある

いっぽうで成長著しいのが中国やASEAN。これらの地域は急激なモータリゼーションの進展にインフラ整備が追い付かず、劣悪な路面コンディションが足まわりにダメージを与え、タイヤとともにショックアブソーバーは「消耗品」と認識されている。

たとえば、シンガポールではスピードハンプ(減速帯)や道路工事が多く、耐久性に優れる日本車でもショックアブソーバーが2年足らずでダメになるといった事例が報告されており、さらに条件の厳しいモンゴルでは、ショックアブソーバーのシェル自体が曲がってしまうことも珍しくない。こうした過酷な地域でのショックアブソーバーの交換頻度はおおむね1~2年ごとで、さまざまなリプレイスメント(純正交換品)や、中古の純正ショックアブソーバーを再生する業者が幅を利かす。テインではモンゴル、ロシア、インドなどの耐久性が求められる市場で、大量の使用済みダンパーを入手し、破損した原因を分析する研究を行ない、商品企画に生かした。

研究の結果、ショックアブソーバーの機能喪失の主な原因は
1:ピストンロッドの耐久性不足によるサビ
2:製造時の異物、外部異物などによるオイルシールの破損
3:ピストンロッドやブラケットの強度不足による変形
であることが判明。これらの問題を解決した高性能ショックアブソーバーの開発を目指した。

現在のグローバルのアフターマーケットにおけるショックアブソーバーの需要は1.4億本、金額にすると数千億円規模といわれ、2030年には1.8億本になると予測。巨大なアフター市場のなかで価格・性能ともに頂点に位置する車高調は年間300~400万本と推測される。テインでは長年の市場調査に基づき、車高調ほどのハイスペックは求めないものの、純正同等品よりも強化した製品や、上質な乗り心地を求めるプレミアムな潜在ニーズがあるものと想定。これを「プレミアム・リプレイスメント」と称し、グローバルのアフター市場で1%のシェア(140~180万本)の獲得を目指すべく、2007年に構想をスタート。

構想から10年を経た2017年、高耐久で純正比2倍の長寿命、乗り心地に優れた純正形状ショックアブソーバーの「エンデュラプロ」シリーズとして具現化。ラインアップを拡充し、これまでに220車種の製品をグローバルマーケットに投入。2030年までにプレミアム・リプレイスメント市場の競合他社のラインアップを超える、3000車種への展開を目標にしている。

豊富なデータと知見が強み

エンデュラプロシリーズの開発で生かされたのが、4000車種を超えるサスペンションに関する豊富なデータベース。たとえば、各車の固有振動数をすぐに参照できるという。加えて、舗装路、未舗装路、積雪路、砂漠や草原地帯、ブロークンターマック(大きく穴の開いた路面)など、世界のあらゆる走行環境データを保有。テインでは1985年の創業以来培ってきた技術やノウハウに、これらの膨大なデータを組み合わせて自社内で開発できるのが強みだ。

基礎研究と設計開発を日本で行ないながら、この製品を生産するために5年前に将来の主要マーケットと見込んだ中国に自社工場を立ち上げた。中国工場には後述するメッキと研磨の作業ラインも併設。日本の設備メーカーの協力を得ながら環境負荷の小さい、最新鋭の生産システムを構築した。ちなみに、エンデュラプロシリーズの生産は中国工場のみで行われ、生産量は年々上昇。今後はグローバルでの需要拡大に対応させるべく、ASEANやヨーロッパでも工場設立を検討している。

細心の注意を払う製造の現場

エンデュラプロシリーズで取り組んだのが、ショックアブソーバーの「心臓部」ともいえるピストンロッドの改善。その品質に大きく影響を及ぼすメッキなど各工程のクオリティコントロールを完璧に行なうために内製化に踏み切った。メッキの後処理に行なう研磨は、円周方向に研磨目が付く「センタレス研磨」が一般的だが、テインでは斜め方向に研磨目が交わる「クロス研磨」を採用。これにより、優れた防錆性の確保と、フリクションの低減による乗り心地の向上が図れる。さらに、すべてのピストンロッドに画像傷検査を実施。また、オイルシールを攻撃し、耐久性に悪影響を及ぼすコンタミ(コンタミネーション=目に見えないチリやホコリなどの小異物)がショックアブソーバー内部に混入するのを防ぐために、構成部品を高精度で洗浄するのと同時に、組み立て作業を手術室レベルのクリーンルームで行なうなど、厳しいコンタミコントロールを実施している。

封入オイルの大容量化と高耐久のケース

耐久性向上については、シェルケースの強度アップ、具体的にはストラットタイプの取り付け部(ナックルプレート)の板厚を増すなどの対策を施している。さらに、シェルケースを可能な限り拡張することで減衰力を生み出すオイルを増量。オイル量が増えることでピストンロッドの上下運動に伴う温度上昇が緩和され、ショックアブソーバーの性能安定や寿命向上につながる。シェルケースの塗装は降雪地で実績があり、特許を取得した2コート1ベークの粉体塗装を採用。耐チッピング(塗装剥がれ)性と優れた防錆性能を実現した。

耐久性と乗り心地に効くH.B.S.

耐久性と乗り心地向上に寄与するのが、ハイドロ・バンプ・ストッパー(H.B.S.)。サスペンションは車体や路面からの大きな入力を吸収しきれずに底突きする場合があり、その衝撃を緩和するためにゴムや発泡ウレタンで作られた「バンプラバー」という部品が用いられているが、バンプラバーが衝撃を受け止めた後の反発力で乗り心地を悪化させる。H.B.Sは底突きを内蔵のバルブで吸収し、熱エネルギーに変換させる機構。大きな入力を受けてもショックアブソーバーへのダメージが少なく、耐久性アップに貢献する。

H.B.S.を搭載したショックアブソーバーは強い衝撃をしなやかに受け止め、バンプラバーのような反発力による「跳ね返り」を抑えられるので、フル乗車・荷物満載状態で凹凸や段差、うねりを乗り越えても不快な突き上げがなく、短時間で挙動が安定する。

ピストンロッドの内製化による耐久性アップと、H.B.S.の採用による快適性、操縦安定性、悪路走破性向上がセールスポイントのエンデュラプロシリーズは、減衰力固定式のスタンダードなエンデュラプロと、減衰力調整機構を加えたエンデュラプロ・プラスをラインアップ。「プラス」は走行場所や乗車人数などシチュエーションに合わせてショックアブソーバーの硬さ=減衰力を好みに合わせて調整でき、オプションで車内から減衰力調整を遠隔操作できるEDFCにも対応。

フラットな乗り味の「エンデュラプロ・プラス」

ドライバー2018年3月号ではエンデュラプロのデビュー直後に試乗記事を掲載しているが、今回改めて「エンデュラプロ・プラス」を装着したトヨタ86に試乗。グレードはGTのMT車で、2016年式・走行距離は4万3268km。ばねとアッパーマウントは純正を流用している。

「プラス」の減衰力調整は16段。まずは純正ショックの減衰力と同等の、前後10段にセットして試乗会場の大磯プリンスホテルをスタート。試乗コースの西湘バイパスは道路工事が各所で行なわれており、継ぎ接ぎや凹凸、うねりを通過する際に振動やショックを拾いやすい。しかも、装着タイヤはダンロップのディレッツァZⅢ。サーキット走行を想定したハイグリップタイヤで、乗り心地や静粛性は二の次……と思って身構えていたが、拍子抜けするほどアタリが優しい。道路の継ぎ目を通過する際も、H.B.S.の効果なのか入力の収束がとても早く、車体姿勢は常にフラット。

気をよくしてもっともハードは前後0段にセットしてみると、ステアリングの操舵感が重めに変化。純正の軽やかなフィーリングも嫌いではないが、コーナリング中や高速のレーンチェンジではこれぐらい手応えが得られるほうが「スポーツカーを操っている」感覚が強まり、筆者の好みと合致する。こうした「乗り味の変化」をスイッチひと押しで行なえるEDFCは、エンデュラプロ・プラスの減衰力調整機構を「宝の持ち腐れ」にしたいためにもマストのアイテムだと思う。

減衰力調整機構は場面に応じた乗り味を楽しめる

ちなみに、もっともソフトな16段の乗り味は、スピードレンジが高いと柔らかすぎる印象。復路は街乗りを想定して国道1号線を走行してみたが、低い車速(30~40km/h)で流す分には、緩めのステアフィールと細かな振動を優しくいなす乗り味が好感触。ワインディングでは減衰力をハード側に振ってFRスポーツらしいキビキビとしたハンドリングを堪能し、街なかに入ったら思いっきりソフトにしてストレスフリーの移動を楽しむ……シチュエーションに応じてキャラクターを変えられるのも、エンデュラプロ・プラスのおもしろさだろう。

テインの海外戦略の要として大きな期待を背負ったエンデュラプロシリーズだが、国内市場では純正ショックアブソーバーや社外の補修用ダンパーと車高調サスの中間という、絶妙なポジションが真のクルマ好きに支持されそうな予感がする。軽カー、ミニバン、セダン、コンパクトカー、輸入車などラインアップも豊富で、「愛車のショックアブソーバーが経年でヘタってきたな」と感じたときに検討する価値は十二分にある。

エンデュラプロ/エンデュラプロプラスの詳しい情報はこちら

〈文=湯目由明 写真=山内潤也〉


テイン
https://www.tein.co.jp/