キドニーは腎臓、スピンドルは糸巻き…フロントグリルにこだわる理由とは

グリル(Grille)とは肉などを焼く焼き網や、それで焼いた肉などを意味する米国英語。クルマ以外の身近なところでは、コンロの “魚焼きグリル” なんて使われ方が、主婦(主夫)の方にはなじみあるかもしれない。

クルマの用語としては、車体前面の網や格子状の部分を指す。そのため、「フロントグリル」や「ラジエターグリル」とも呼ばれるが、単に「グリル」だけでもその場所や役割は想像できるだろう。言わずもがな、ヘッドライトとともに顔の印象を決定付けるパーツだ。

そもそもグリルは、エンジンやラジエターなどに空気を取り込み、それぞれを冷やす機能的なパーツとしての役割を担ってきた。しかし近年、そのデザインはじつに多様化。単に意匠だけでなく、ブランドイメージを示すアイコンとしての意味をも持つよう変化している。

■デザインよりも機能を重視

機能(性能)を重視したかつての一例。1972年発売の4代目「スカイライン」(C110型)の2000GT系……いわば標準型のグリルには、内側にフレーム状の加飾が入る。これに対し、翌73年に追加されたハードトップ2000GT-R(KPGC110型)は、文字どおりシンプルなメッシュ状。狙いは、エンジンの高出力化に伴う冷却効果の向上と軽量化だ。

●スカイライン ハードトップ2000GT-X(左)、同2000GT-R(右)

■中身だけを変えてイメチェン

グリルの意匠などを変えて別車系とした一例。販売店違いの姉妹車として長らく日産の上級モデルに位置した「セドリック」と「グロリア」。79年発売の通称430型は、前者を縦基調、後者を横基調のグリルとすることで顔つきを差別化。以後その様式は踏襲され、フォーマルなセドリック、スポーティなグロリアと、微妙なキャラクターの差別を図った。

●セドリック セダン(左)、グロリア セダン(右上)、グロリア ハードトップ(右下)

■グリルでブランドがわかる

年代やモデルが違っても、顔つきだけでそれとわかる代表格といえば、BMWのキドニーグリル。左右対称の環状形状が特徴で、青空と航空機のプロペラを模したエンブレムとともに、今に続くBMWのブランドアイコンとなっている。

「キドニー」は英語で「腎臓」の意。33年登場の「303」以後、デザインを変えながらすべてのモデルが受け継いできた。近年はSUVのX系を筆頭に腎臓の肥大化が顕著。ある意味先祖帰りしたとも言えるが、ちょっと大きすぎやしないか。

●歴代BMW。左から、303、2002tii、X7(現行型)

ほかにも2分割グリルから発展したアウディのシングルフレームグリルや、アルファ ロメオの盾型グリル、ロールス・ロイスのパルテノングリルなどが “らしい” 意匠だ。

●2代目アウディA6(左上)、現行型アウディA7スポーツバック(右上)。ロールス・ロイス ファントム(左下)、アルファ ロメオ ステルヴィオ(右下)

■ブランドイメージを確立したい

BMWやメルセデス・ベンツのように、似たような顔つきとしてイメージを統一。言わば「ファミリーフェイス」として近年ブランドの確立を図っているのがレクサスとマツダ。

●レクサスGS(日本では2代目)

レクサスは2012年発売の「GS」から、木と木をつなげる “くさび” のようなスピンドルグリルを導入。以後のモデルに採用している。スピンドルとは紡績機の糸を巻き取る紡錘(糸巻き)のこと。トヨタの起源が織機であることも関係しているかもしれない。

●アテンザ(3代目)

12年発売の「アテンザ」以後、外形に魂動デザインを取り入れているマツダ。5ポイント(5角形)グリルをアイコンとした顔つきは、日本車メーカー屈指のファミリーフェイス。グリル内にナンバープレートが収まる「マツダ2」や「マツダ3」は5ポイントであり、シングルフレームとも言えるか。

■手の込んだ感をアピール

最近は、外形だけでなく中身(の網目)にもこだわるモデルが続々登場。17年登場のレクサス「LS」は、CADモデリングの匠がコンピューターで全体のバランスを整えたうえで、線1本、面ひとつまで手作業で調整。数千の面で構成されるデザインを、ボディ全体の塊と一体感を持たせながらグリルのフレーム内に収めた工芸品ともいえる一品だ。

●レクサスLS(現行型)

■その流れは軽自動車にも

20年登場の三菱eKクロス スペース、そして日産ルークスは、グリル内側の意匠にもこだわり。
まずはeKクロス スペース。先のeKクロスやデリカD:5と同様、「ダイナミックシールド」を取り入れた顔つきが特徴だ。いずれのグリルも小さな菱形の集合体で構成されるが、その中でもカタチに変化を持たせ、車体の大きさによりサイズを微妙に変えることで、同様の緻密感を表現している。

●eKクロス スペース(左)、デリカD:5(右)

ルークスのハイウェイスターは、ハニカム状の6角形で構成。よく見ると、その中でも開口部(一部ダミー)のサイズを上は小さく、下へ行くに従って大きくしている。併せて表面をピアノブラック調塗装とすることで、幾何学柄が織り成すツヤ感にも変化を付けている。

●ルークス ハイウェイスター(手前)、ルークス(奥)

「神はディテールに宿る」などとも言われるが、クルマの造り込みや上質感を演出するうえで、今後、グリルの果たす役割が高まることは間違いない。ひとつ気がかりなのは、あまりに凝ったデザインになりすぎると、洗車が面倒くさい……ということくらいだろうか。

〈文=driver@web編集部〉